アドバンスト・ナイトロックス講習

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先日、潜水教官の指導の下、アドバンスト・ナイトロックス(Advanced Nitrox)講習を受けました。

この講習はスキューバダイビングにおいて、空気よりも酸素含有率の高い混合ガス(Enriched Air Nitrox、EAN)を利用し、安全にダイビングするための技能を習得するためのものです1

スキューバダイビングの中に、洞窟等の閉鎖空間における潜水や、減圧を伴う潜水を指すテクニカルダイビング(Technical Diving)というカテゴリがあります。
アドバンスト・ナイトロックスはテクニカルダイビングの導入的な位置付けを持つ資格であり、この講習に含まれる訓練項目を習得した後、洞窟潜水やリブリーザー(循環呼吸装置)等、より専門的な潜水技術に進むのが一般的となっています2

講習は学科と実技からなり、学科ではナイトロックスを用いた計画潜水の方法や、潜水医学に関する知識等を学びます。
実習では、学科で学んだ内容に基づき、実際に計画潜水を行いました。

窒素と酸素

人間が利用する空気は、酸素と窒素で構成されています。水中で呼吸すると、酸素は生命維持のため体内で利用されますが、窒素は身体の各部位にたまっていきます。

一定以上窒素が体内に蓄積すると、そのまま水面に浮上した場合、窒素が気泡化し「減圧症」(Decompression Sicknes、通常The Bends)に陥ります。四肢や脊髄、脳等各部に異常が発生し、場合によっては死亡します。

このためスキューバダイビングでは、水面に浮上する前に、体内から窒素を排出するための安全停止や減圧停止を行います。

ナイトロックスは、空気よりも酸素濃度の高い混合ガスを利用します。例えばEAN32は酸素32%、窒素69%であるため、空気よりも窒素の割合が薄くなります。よって、体内に充填されていく窒素の量も減り、水中により長く滞在することができます。

ところが、今度は酸素の濃度について考える必要があります。
人間が水中深くに潜れば潜るほど、呼吸するガスの圧力も強くなっていきます。そして一定圧力(分圧といいます)以上の酸素は人間に対し有毒となります。

例えば特定濃度の酸素を、許容されているより深い水深で吸った場合、ただちに痙攣、気絶等の症状が発生します。水中でこのような症状が発現すると直ちに死の危険に陥ります。

以上のように、窒素には減圧症のリスクが、酸素には酸素中毒のリスクが存在します。

学科講習では、この双方のガスのリスクや許容範囲を考慮しつつ、特定の水深を一定時間探索するために必要なガスの種類、ガスの量を算出するという作業を行いました。
これを計画潜水といいます。

ダイビングを始めて4年弱ですが、普段は減圧する必要のない深度・時間・ガスで潜るため、酸素中毒や減圧に伴うリスクを意識することはあまりありませんでした。
しかし講習で学んだようなガス(窒素・酸素・二酸化炭素等)および潜水生理学に関する知識は、生存やトラブル対応のために確実に知っておいた方がいいという教訓を得ました。

機動・操縦

実習では、事前に作成した計画に基づく潜水を行うとともに、水中での様々な運用を学びました。

特定の水深に特定時間滞在し、最終的に水面に戻るために、どのような種類のガスを持っていくべきか、各水深への到達時間はいつか等をあらかじめ決定し、実際にその計画に従って水中を移動しなければなりません。

実習ではメモとストップウォッチを凝視しながら、時間に合わせて水深を変更、さらに所定の深度でのガスの切り替え等を実施しました。

海洋実習の後半では、タンクの着脱やガスチェンジ、ホースの取り回し、あるいはその場水平回転や後退等の動作を学習しました。
私はこのような水中機動・運用を楽しんで練習しましたが、大多数の人から見れば何をやってるんだろうと思われるかもしれません。

テクニカルダイビングに興味をもったきっかけの1つは、複数のガスタンクを持ち、またホースを使い分けている様子が宇宙戦闘員かサイボーグのように見えたからです。
今回、装備を身に着けて水中にいるだけで、忍者になった感覚を味わうことができました。

水中忍者への道

指導教官のおかげで安全に講習を終えることができました。

工作員にとっては、水中から敵に接近する技術が不可欠です。敵が離島に逃げても、船で逃げても、水中から忍び寄る必要があります。

洞窟や地下水路等の閉鎖空間を潜航する場合、事故のリスクが上昇します。

  • 道に迷って空気がなくなる
  • 窒素がたまりすぎてそのまま水面に戻ると減圧症になる
  • 呼吸するガスを間違えて酸素中毒になる
  • その他

このような環境から無事に生還し任務を遂行する能力を習得するためには数年計画でのトレーニングや準備が必要になります。
また技術を身に着けるために体力を向上させ、疲労状態や極限状況でも判断ができるよう心身を鍛えることが重要だと考えます。

  1. https://www.cmas.org/document/tek-3-advanced-nitrox-2023-bod-224/download.html ↩︎
  2. https://www.cmas.org/diving-programs/technical-scuba-diving-ccr.html ↩︎
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