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- 2025年7月25日
減圧手順(Decompression Procedure、DECO Diver、DC)は、テクニカルダイビングの基本を学ぶコースの1つであり、先日受講したアドバンスト・ナイトロックス講習に続く位置付けです。
アドバンスト・ナイトロックス講習では、空気よりも酸素濃度の高いガス(EAN)の利用法、潜水物理学と生理学、潜水計画、器材の準備等を学びました。
今回の減圧講習は、より実践的な、水中でのガス運用方法を中心としたトレーニングでした。
タンクを振り回す
減圧を伴う潜水では、計画に応じたガスの切り替えが必要になります。複数のガス(空気やナイトロックス、純酸素等)を装着し、水中に持っていきます。
あらかじめ定められた行程や深度で、吸引するガスをチェンジしなければなりません。
講習は水中における装備の脱着やタンクの付け替え、取り外しから始まりました。
レクリエーション講習でも行うマスクの付け替えや、タンクの付け替え、バディとのタンク交換等を繰り返し練習します。
また、浮力や水中移動の精度を向上させるために、バックキック(後退する泳ぎ方)や、ヘリコプター・ターン(その場で方向変換)等も行いました。
動画にあるようにひたすらタンクの脱着、交換をしていましたが、2日目になると集中が切れ、ミスが増えました。
手を滑らせてタンクを水底に落としてしまうこともありました。
必携品であるスナップやリール(ダイビングで利用するロープ)は沈む性質であるため、手から放してしまうとただちに奈落の底に落ちていきます。
ガス交換
減圧に際しては、体内に溜まった窒素を排出するために、酸素濃度の高いガス(EAN)あるいは純酸素を吸引します。
気体はその種類ごとに圧力勾配が働くので、肺の中に窒素の薄いガスを入れた場合、体内に溜まった高圧状態の窒素は、低圧の肺に向かって移動します。肺に集合した窒素は、呼吸によって口から排出されます。
このようにして、窒素を体内から排出した後、水面に浮上します。
これが減圧手順の基本的なコンセプトですが、問題は使用するガスにあります。
アドバンスト・ナイトロックス講習の記事で紹介したように、高濃度の酸素は一定の圧力を超えると人体に有毒となります。
例えば、酸素80%のガスを水深8mより深い場所で吸引した場合、中枢神経系酸素中毒になるリスクが高まります。これは前兆なく痙攣・失神するというもので、水中で発生した場合ただちに死亡する危険性があります。
酸素濃度ごとに使用可能な最大水深を「MOD(Maximum Operating Depth)」といいます。
ナイトロックスはMODの範囲内で利用しなければ重大な危険を伴います。例えば純酸素や高濃度酸素を吸っている最中に、ついつい体が沈んでしまいMODを超えてしまうと、失神のおそれがあります。

そのような事態を起こすことなく、安全に減圧を行うために、中性浮力(水中で浮き沈みすることなくその場に静止するように浮力を調整すること)の訓練が重視されます。
通常のレクリエーションダイビングと違い、予備タンクと減圧用ガス(通称デコガス)を装着しているため、水深の浅い場所(5m程度)で静止するのに苦労しました。
また、ガスチェンジの際はレギュレーターの吸い口を切り替えるため、その間息をとめますが、この息止めが微妙に浮力に影響を与えて浮き出す等あり慣れが必要であることを実感しました。
減圧用ガスの吸い口(セカンドステージ)を取り出す際に、居合のように引き抜くのが楽しいのですが、この動きも微妙に浮力や姿勢のバランスを乱すため浅い水深では厄介でした。
思ったように体を制御できず、2日間の講習が終わったときにはだいぶ疲労が蓄積しましたが、インストラクターの指導等のおかげで事故等なく講習を終えることができました。
洞窟を長時間移動したり、深い場所にある沈船に侵入した場合、それだけ窒素が蓄積するため、減圧時間も長くなります。
高リスクのダイビングに関する書籍では、8時間以上におよぶ減圧(水中で長時間待機)1や、減圧ミスによる死亡事故等2について詳しく説明されています。
難易度の高い場所に潜るためには、まずは本講習のような基本的な事項を確実に習得することが不可欠になります。
今後のトレーニング
テクニカル・ダイビング(減圧を伴う潜水等)のコースを取り扱う指導団体は複数ありますが、その1つであるCMAS(世界水中連盟)では以下のコースマップ構成となっています。

減圧手順の基礎を学んだ後は、実際に減圧を利用した潜水訓練を行います(Extended Range)。
その後は、いくつかのルートに分かれます。
- リブリーザー(循環呼吸装置)を習得するコース群
- 洞窟や沈船侵入等を習得するコース群
- ヘリウムや、2種類以上の混合ガスを運用するコース群
- 混合ガスの製造を習得するコース群
- サイドマウントスタイルを習得するコース
様々な環境に適応しアクセスするには上述のスキルや知識を身に着け実際に利用できるレベルになるまで訓練する必要があるので、工作員フィット・「海」領域はまだ始まったばかりです。