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- 2025年7月17日
本を読むと弱くなるのか
私の趣味の1つは本を読むことで、いわゆる古典文学や国内外のフィクションを以前よく読みました。
当時、面白いと思ったのが、戦いや冒険、意志力といった要素のある作者や本で、デュマ、メルヴィル、ジョウゼフ・コンラッド、アーサー・ケストラー、ユゴ―、パール・バック、サンテグジュペリ、エルンスト・ユンガー、中島敦、ソロー等です。
どれも有名な作者ですが、自分の読み方は非常に偏っており、とにかく主人公のサバイバルや復讐、戦闘、鉄の意志といった題材に執着するという方式です。
高校生の頃、いろいろな本を読んで机上の知識は増えていましたが、一方学校は休みがちになりほぼ不登校状態になりました。
三国志の武将や、ケストラーの本に登場するゲリラや特殊工作員、ジャン・バルジャン等に比べて、私の戦闘力や能力はあまりに低く些末です。
古典の世界にいる英雄や武将と自分を対比させることで日々のモチベーションが低下してしまうという悪循環に陥っていました。
「本を読むと弱くなる」、「本を読むとリアルで負ける」というような誤った認識を抱いていましたが、これは自分の戦闘力不足を本のせいにする行為です。
このままではいけない、と心を入れ替え、戦闘力を向上させる文学、戦闘民族の文学とは何か、というテーマを個人的に追求するようになりました。
戦闘力文学
この調査テーマは主に2つの方向性に分かれます。
1つは、現実世界で実行可能な、フィクションにおけるアクティビティやフィジカルを探すことです。
『モンテクリスト伯』を読むだけでは単なる読者でしかない、しかしこの主人公の不屈の意志や執念を現実世界で実践できれば何かの役に立つはずです。
またメルヴィル『白鯨』には、狂信的な意志でクジラを追跡する船長が登場します。このような鋼鉄の意志も、現実世界で実行できれば必ず助けになると確信しました。
ユゴー『レ・ミゼラブル』においては、まず主人公ジャン・バルジャンの筋力に注目しました。彼の怪力がなければ物語は始まっていません。
フィジカル能力は他人を巻き込んで物語を創造する力があります。一方、筋力不足で意志の弱い人間はフィクションの外ではほぼ無力です。
原作を読んで10年以上経ってから、2012年のミュージカル映画を観ましたが、やはり得られた教訓は「人助けにはフィジカルが不可欠」というものでした。
中島敦は『弟子』や『李陵』等の面白い中短編を制作しました。話のポイントは物理的な力と、物理機関である脳に起因する精神すなわち意志の力の両立です。
他にもスティーブンソンや南洋植民地、朝鮮を題材にした作品もあり、こちらにも生存力の優れた人物が多数登場します。
いずれの作品における筋力・アクティビティも、現実世界で実現可能に見えなくもないが、普通はだれもやらない、だが自分はやる、というバランスがポイントです。
もう1つの調査テーマは、戦闘力のある作者、あるいは戦闘的なアクティビティや過酷な環境を生き延びた作者を追求するというものです。
フィクションは、繊細で弱い人間のもの、感受性が強いデリケートな人間のものという考えを覆す作者を熱心に探しました。
例えば三国時代における魏の武将である曹操は詩人としても知られており、『中国名詩選』に、『文選』収録の曹操の詩歌が収録されています。戦国武将として勤務しながら、フィクションすなわち嘘の芸術の世界を追求することが可能だという実例です。
エルンスト・ユンガーは第1次世界大戦に従軍し、非常に貴重な勲章であるプール・ル・メリットを授与された人物です。ドイツ陸軍で功績を積む一方、様々なフィクションやエッセイを書いています。
ナチ党が政権をとると、陸軍内部に匿われ、またヒトラー暗殺計画の首謀者たちとも関わりました。
私はこの人物の本に強く影響を受けており、日本語と英語で読めるものは大半読みました。傾向としては実体験に基づく本や、哲学・古典を題材にしたエッセイ、超現実的・非現実的な舞台のフィクションと様々です。
ジョウゼフ・コンラッドは船乗りとして活動し『闇の奥』、『西欧人の眼に』、『進歩の歩哨所』等を書いた小説家です。
こちらも日本語訳と原作をほとんど読みましたが、船員として植民地を見聞した実体験や、英語を実地で学んだ経験(コンラッドはポーランド出身)が生かされているように感じます。
航空機パイロットのサンテグジュペリや、放浪生活の中からフィクションの力を追求したヘンリー・ミラー、元軍人のエドガー・アラン・ポーやコーマック・マッカーシーも私の調査対象でした。
上に挙げた制作者はほんの一例ですが、戦闘力を保有するこうした人物たちの追跡を通して、「本を読んでも弱くならない」、「逆に強くなる」、「エイハブ船長の鉄の意志を具現化することで生物レベルを上げる」というような結論を確信しました。
文学脳の恐怖
本・書籍は人間の精神に大きな影響を与えるリスクがあります。まさに文学脳の脅威ともいえるものです。
私は本とフィクションの毒を浴びて、人格や現在の生活もその影響下にあります。
自衛隊に入った動機の1つが、ユンガー、ゴットフリート・ベンの従軍日記や、日本国内では古山高麗雄、島尾敏雄、山本七平等の戦記文学・エッセイを読んだことによります。
私の脳内で、軍あるいは戦争に関係のある経験をしなければ、何も話すことを持たない人間になるという強迫観念が形成されました。
現在取り組んでいる工作員フィットも、スパイ・秘密工作員として活動したサマセット・モームやジョン・ル・カレ、アーサー・ケストラー、ジョージ・オーウェル等の著作に影響を受けています。
ただし、本活動コンセプトへの直接的な影響はトム・クルーズと元特殊部隊系ハイブリッド・アスリート達によるものが大きいです。
トム・クルーズはほとんど全てのアクティビティ……スカイダイビング、スキューバダイビング、航空機操縦等をスタントマン無しで自力で行います。
トム・クルーズに、一体何なら勝てるのか、何かしらで勝たなきゃ、というモチベーションが今は強いです。
この記事では省略しましたが旧約・新約聖書や、神学に関連する本……ラインホルト・ニーバーや『クオ・ヴァディス』、『ベン・ハー』、『バラバ』にも、鉄の意志にまつわるテーマが多数存在し、私の実生活に影響を及ぼしています。
面白い本や作者を発見するたびに私の行動は変容し、フィジカルとサバイバル力が強化されていくに違いないことを強く確信しています。
今思いつく、戦闘力増強に効果のあった本
- 『白鯨』 メルヴィル
- 『真昼の暗黒』 ケストラー
- 『The Forgotten Soldier』 Guy Sajer
- 『Storm of Steel』 Ernst Junger
- 『クオ・ヴァディス』シェンキエビチ
- 『The Great Game』、『Setting the East Ablaze』 Peter Hopkirk
- 『Beasts, Men and Gods』 Ferdinand Ossendowski
時間を持つことは、空間を持つことより重要である。空間と権力と金は、時間が与えられないならば、手かせ足かせの桎梏である。自由は時間の中に潜んでいる――結局のところ、個々人は、時間の使い方の弁明を自分自身に対して行わなければならない。時間こそ、彼の財産である。
(『小さな狩 ある昆虫記』エルンスト・ユンガー)
傭兵の真のタイプは、あたかも事柄がきちんと整頓されているかのように続いていく腐った理想主義と向き合って立っている。――かれらは昔も今も将来も、あらゆる場所、あらゆる時代にも変わらず、あの生ける屍とは何の関係もないとの感じを与える。危険がますます大きくなっているのに、かれはますます元気で、ますます必要な人間になっていくと感じている。
(『パリ日記』エルンスト・ユンガー)
自己教育について。弱い身体で生まれても、かなりの程度の健康体にまでなることができる。同じように学問についても……それよりもはるかに難しいのは、まったく腐敗しきった状態の中でほんのわずかでもモラルにおいて進歩することである。
(『パリ日記』エルンスト・ユンガー)
これこそ、恥もなく、誉もなく、凡々と世に生きた者たちの、なさけない魂のみじめな姿。神に逆らいもせず、さればとて忠順でもなく、ただ傍観していた天使たちの、卑劣な一隊もかれらにまじっている……
……よってただちにわたしは、これぞ神にも神の敵にも憎まれたろくでなしのやからの、よりあつまりに違いないと悟った……
生きたことのないこれら人間の屑は、その裸身を、むれつどう虻や蜂に、いたく刺されていた。
(『神曲』ダンテ)