私のダイビングとストレス管理

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スキューバダイビングを始めてまだ数年ですが、工作員フィットとしての目標はタイの水没洞窟でサッカー・チームを救助した海軍特殊部隊と洞窟ダイバーです。

ダイビングのきっかけ

体験ダイビング

私が初めてスキューバダイビングを行ったのは20代の頃です。
那覇基地で勤務していたとき、職場の同僚といっしょに体験ダイビングに参加しました。
記憶があいまいですがボートで慶良間諸島まで移動し、砂地で潜水してウミガメ等を観察した気がします。

以来、ダイビングと特に縁がないまま10年以上経過し、数年前、石垣島に旅行したときに再度体験ダイビングに参加しました
ここでも白い砂地を這うように潜水し、ウミガメや魚を見学しました。

その後、近場のダイビングショップを探して訪問したのが本格的にダイビングを始めたきっかけです。

フロッグマンと洞窟ダイバーをみて

沖縄本島や石垣島で体験ダイビングをした時点では、ダイビングは遊覧船と同じような単発のレジャーという認識しかありませんでした。
しかし、ダイビングを本格的に始めたときには別の方向性から関心を持っていました。

2018年にタイで発生した洞窟の遭難事故1では、洞窟内部に取り残された13人のサッカー少年たちが、タイ海軍特殊部隊および洞窟ダイバーの尽力で救助されました。
救助作戦に関するドキュメンタリーをNetflixやDisneyチャンネルで観て、潜水技術があれば人を助けられるのか、と感心しました。

洞窟を潜るという行為自体ほとんど知らず、またそれを趣味や仕事にするダイバーも存在するということが衝撃でした。

2022年には知床遊覧船沈没事故2が発生しており、このときはまだ潜水やダイビングの知識もなかったので、「潜る技術があれば捜索できる」と調子のいい考えが浮かびました。

捜索・救助活動という観点からスキューバダイビングに興味を持つ人は、魚や水中写真に比べて少ないのではと思います。

とにかくこの時は、潜水こそ私に必要な技術だと強く確信し、まずは一般的な都市型ダイビングショップでライセンス取得を開始しました。

ストレス管理 ――『ダイバーとパニック』から

ストレスのしくみ

スキューバダイビングでは毎年死亡事故が発生していますが、事故の状況や詳細は報道されない場合があります。
しかし、事故を未然に防止するためには、原因や経緯、教訓について学ぶ必要があります。

そこで月1回ペースでのダイビングを開始してからは、潜水事故に関する本やガイドブック、ニュースサイト等を調査し、Youtubeの潜水事故チャンネル等を確認するようになりました。

ここで紹介するのは『ダイバーとパニック3』という本で、原著は”Stress and Performance in Diving”という1980年代にアメリカ海軍医学研究所の職員によって書かれた若干古いものです。

ダイビング中、何等かのストレス因子が原因となり、ダイバーがパニックに陥ることがあります。
パニックになると正常な判断力が失われ、重大な事故に発展するおそれがあります。
この本は、ストレスとは何かから始まり、ダイビング中のストレス因子やストレスの兆候、パニックの症状について説明します。

ストレスは、ストレス因子によって引き起こされますが、その結果には個人差があります。ストレス因子に対する感受性が低い人間は、ストレス耐性が強いといえます。

心理学における「レジリエンス」4でも似たようなことが言われますが、ストレス因子は、人間に刺激や興奮を与え、また自己のストレス耐性をテストすることにも利用されます。

知識に基づいて(ストレスを)コントロールすることは、トレーニングにおいて重要であり、スポーツを行う状況の理解にも通じる。

ストレス因子が人に影響を与えると、人は様々な行動をとるようになります。
このような行動は外部から観測可能な場合もあるため、特にダイビングのバディや仲間の様子を確認する際に知識として役立ちます。

地上や潜水前:

  • 忘れ物・忘れごとが多くなる
  • ミスが多くなる
  • 緊張をほぐすために他者を攻撃する
  • 虚勢を張る
  • 迷信的行為に及ぶ
  • 忘れっぽくなる
  • 自信過剰に陥る

上に挙げた兆候は、ダイビングに限らず、緊張等のストレスによる行動として身近でも観測できるのではと思います。
本書では特に自信過剰を危険視しています。
ストレスによる自信過剰は、他人の欠点や欠陥を理解せず、後に重大な問題を引き起こす可能性があるとしています。

ストレス因子が一定以上の強度で作用すると、人はパニックに陥ります。
水中でパニックに陥った場合、マスクやレギュレーターを外したり、闇雲にもがいたりといった異常行動に発展します。

鍛えよ、そうすれば、与えられる。

重要なのは、ストレスに起因する不安とパニックをどのように克服・抑止するかです。

不安とパニックの基本は、問題に対処するために有効となる活動が十分なされていない点にある。この活動とは多くの場合、トレーニング、肉体条件および技術の獲得である。

つまり、ストレスと不安を克服する最大の活動はトレーニングであると著者は述べています。

パニックを防ぐ因子:

  • 体力
  • トレーニング
  • 水泳能力
  • 体温管理(寒さは疲労とストレスを増大させる強力な因子です)

また、著者はNavy Seals(米海軍特殊部隊)におけるストレス耐性訓練にも言及しています。
コントロールされた環境下で、あえてストレス因子を与え、ストレスに対する慣れを身に着けさせることで耐性を強化するという訓練です。

ストレスと戦うトレーニングは、既に日常生活から始まっています。

不安に弱い・ストレスに弱い人間の特徴(抜粋):

  • 不安になりやすい
  • 社会的に非難されることに対する恐怖心が強い
  • 好奇心が弱い
  • 新たな刺激を回避しがちである
  • 不確定な環境・状況に対処できない
  • 無力感が強い
  • 身体的に健康でない
  • トレーニング・練習不足
  • 人づきあいができない・他人の支援・助言が受け入れられない
  • 他人に支援・助言を与えられない

社会的不安は、ストレス因子の中でも大きな割合を占めているとのことです。

人に愚か者とみられるのが恐ろしい人は、問題を解くのに長い時間をかけていた。

ストレスに対処し状況をコントロールするには、トレーニングを通じて能力、リーダーシップ、責任を強化することが重要であると本書は結論付けています。

この考え方に共感し、私自身もバディである配偶者とお互いに指導やフィードバックを行っています。

ダイビング中に撮影した動画を見返しながら「フィンキックが変」、「位置取りが悪い」等の指摘を受けています。
ファンダイビングの場合、そこまで親しい関係でない人同士だと、潜り方や技術について口出しするのが難しいこともあり、この点は良かったと思います。

工作員とは生き延びること

スキューバダイビングやスカイダイビングは、コントロールされた状況下でストレス耐性を強化するという点で非常に効果的だと考えています。

Wikipedia「スカイダイビング」5の項に、ソ連の宇宙飛行士ガガーリンの著書からの引用が記載されています。私はこの一節を読んで、スカイダイビングを始めました。

… パラシュート降下は人格を練り、意志を強固にする。わが国(ソ連)の数十万の青年男女がこの勇壮なスポーツを楽しんでいるのは本当に良い事だ。

水中や上空等の極限状況において判断力やリスク管理能力を訓練することにより、いかなる状況でも行動できる工作員精神を養うことができると考えます。

引き続き、生き延びれば勝ちという信念のもと、ダイビングに取り組む予定です。
なお、ダイビングの際はインストラクターの指示や各指導団体のカリキュラムに従っており、無謀な企て等は行っていません。

  1. タイ洞窟から少年とコーチ、全員無事救出 ↩︎
  2. 知床遊覧船事故と事故原因について(報告) ↩︎
  3. 『ダイバーとパニック』、井上書院 ↩︎
  4. 『レジリエンス入門』内田和俊 ↩︎
  5. スカイダイビング、Wikipedia ↩︎
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